t-products Architect's Office

2023.06.28

小さな通りに大きな軒を開く

福祉NPOさんの軒開き

このNPOさんは、就労継続支援A型の事業所です。今までの業務は、洋服の再生のために、集荷・分類・再搬送だけでなく、ブランドタグのカット(再販しやすくして流通の輪に再度乗せる)を主軸とした業務を受注し、ファッションロスの課題を解決する取り組みの一旦を担っていました。

このNPO事業者さんの次の展開を構想する段階で、拠点づくり・場所づくりを含めたプロジェクトメンバーとしてお声がけ頂きました。又同時期に、福祉施設の未来を担う建築事業の助成金公募があり、建築案として公募に参加する事になりました。この公募の先駆的取り組みとして、事業者と設計者がタッグを組んで1つの案を提出します。(一般の建築コンペやプロポーザルと違い、事業者さんと協議しながら運営と一体化した建築提案をする、今までになかった枠組みでした。)

まずやはりこのNPOさんの取り組みに感銘を受けました。又就労継続支援という取り組みと実際の活動を見学させて頂き、具体的に大量の再生衣料に埋もれながら皆さんが淡々と作業を進めている光景は清々しいものでした。

公募のテーマとして「地域社会と住民に開かれた未来の福祉施設」とあり、事業者さんたちと、開くこととは?とディスカッション出来たのは非常に有難かったです。設計者が事業運営の次の構想を考える場に立ち会うという事自体、通常の建築企画の一歩手前のことです。
ディスカッションでは、この事業所の作業は今までは裏方的作業だったが、販売をしてみてはどうか?とか、今までもやっていたバザーを工夫しよう!とか、事業所の休みの日の空間利活用をしよう!というチャレンジ提案に出会えました。

さて、街に開くといっても、就労継続支援の事業所という性格上、作業する人の能力や状況は様々で、心理的安全性も尊重した空間が必要です。街との接点をイベント的事業を増やすのではなく、日々の日常を大切にした施設設計と、その中で街の人とのささやかな接点が生まれる事が重要となります。段階的に開いたり閉じたりできるしつらえを中心に検討しました。

建物は用地検討から始まり新築か改修か、大阪の物件を色々廻り、今まで作業を発注してくれていた会社さんの建物を部分的に利活用する方法となりました。改修は既存建物の減築となっています。面積は減りますが、耐震性は向上します。実はこの減築によって新たに外の空間が出来ました。屋根はあるけど外の空間、軒空間。街に面するちょっとした広場が生まれます。軒先はちょっと雨宿りしたり、井戸端会議したり、バザーしたり、子供の寄り道ルートになったり、、。前の通りは頻繁にママチャリが行き交う幅の狭い生活道路ですが、大きな軒を開いて、ちょっと楽しい未来の風景になる事を構想しました。

提出にあたり、事業者の皆さま、相談させて頂いた専門家の方々、どうも有難うございました。
実は公募には採択されませんでしたが、未来の種となります様に。
所在地 大阪府西成区
主用途 倉庫の一部を就業支援A型施設へ改修(減築)
構造・規模 鉄骨2階建て
企画設計期間 2021年7月~2021年10月
企画立案 ティー・プロダクツ建築設計事務所 谷口智子
共同立案者 清正崇建築設計スタジオ 清正崇 http://stas.jp/ 
事業者 特定非営利活動法人 やさしいあおぞら 担当 澤田照葉 https://ao-zora.org/ 
ディレクション コオフク 西村佳子 https://co-fuku.com/ 
協賛 株式会社Shoichi 山本昌一 https://shoichi.co.jp/ 
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